2012年6月27日水曜日

個人で年1億円の収入も スマホアプリ広告で大もうけできる?

「最近は個人制作のアプリでも、人気の高いものは月1000万円以上の広告収入を得ています」(大手アプリ広告会社)。
最近、スマートフォン(スマホ)アプリ内に表示する広告ビジネスが急成長している。無料アプリを使っていると画面内にバナー広告が表示されることがあるが、これが代表的なアプリ広告だ。

 アプリ広告の市場が伸びると、個人や中小企業の収入も急増し、アプリのビジネスモデルも大きく変わる(関連記事「140万DL! 大ヒットアプリ『斉藤さん』の原点はアマチュア無線!? 」)。そこで華やかなスマホアプリを支える“裏方”である、アプリ広告の仕組みについて解説しよう。

ソーシャルゲーム会社がスマホ広告を育てた

 スマホ向け広告は数年前から存在していたが、当時は小さな市場だった。それが昨年2011年、日本でも大きく伸びた。

 スマホ向け広告の多くは「アドネットワーク」を通じて表示されている。アドネットワークとは、企業が自社広告を、多種多様なアプリやスマホ向けサイトに表示する仕組みだ。

 2011年はスマホアプリの数が爆発的に増えた。これはアドネットワークを通じて広告を表示するスペースが増えたことを意味する。

 さらに大きいのは「2011年にはスマホ向け広告にお金を出す広告主が増えたこと」(モバイル広告大手のmediba)。

 グリー、DeNAのソーシャルゲーム会社が、フィーチャーフォンで得た利益を元手に、スマホ上でゲームを宣伝すべく、スマホ向け広告を資金をつぎ込んだ。リクルートやNHN Japanなどのネット大手も、スマホ向け広告に出稿するようになった。

 アドネットワークにつながるメディアが爆発的に増え、大手企業もスマホ向けのアドネットワークに出稿するようになった。広告の「入口」と「出口」が2011年に一気に広がったのだ。

 最近はスマートフォンに最適化して表示するウェブサイトも増えているが、「広告を表示するメディアの数は、ウェブサイトよりもスマホアプリのほうが圧倒的に多い」(mediba)。アプリのほうが個人が簡単に制作でき、広告契約も個人で行えるのがその理由だ。

 アプリ広告のビジネスモデルは単純。画面内に広告を表示する、もしくはユーザーが広告をクリックすると、アプリ制作者には広告収入が入る。

 1表示あたりの広告収入は現状、パソコン向けやフィーチャーフォン向けの広告より安い。ただし、スマホアプリは画面の表示回数が多く「個人制作の無料アプリでも、月間1億ページビューをたたき出すものもある」(同)。単価が安くても、表示回数の多さでカバーして多くの収入を得られるのだ。

 スマートフォンの普及率が高まる今、アプリから得られる広告収入も急伸中。前述したように、個人で人気アプリを作った場合、月間1000万円を超える広告収入が入ってくる。年間に直すと1億円以上の収入を得ている「アプリ広告長者」も、すでに現れているのだ。

広告を通じてゲームアイテムを無料獲得できる

 最近は「リワード広告」と呼ばれるスタイルも広がっている。

 パソコンサイトでは、一般ユーザーがあるリンクを経由して商品を購入すると、そのリンクを設置したサイト運営者に対して報酬が支払われる「アフィリエイト広告」が盛んだ。スマホアプリにも、こうした広告手法が取り入れられている。

 例えば、家電量販店やキャリアショップでスマホ端末を購入すると、店員から「アプリを事前にインストールしますか?」と聞かれることがある。これは販売店が行っているアフィリエイト広告の一種。アプリのインストールごとに、販売店はアプリ提供企業から数百円の報酬を得ている。

 この広告の第一目的は、アプリのプリインストールを行って利用を促すこと。また、スマホアプリの存在を多くの人に知らしめるには、「iTunes Store」や「Google PLAY」など、アプリストアのダウンロードランキングに入るのが最も効果が高いと言われている。店頭でのアプリインストールは、ランキング入りを狙ってダウンロード数を増やす狙いもあるのだ。

 上記のアフィリエイト広告は販売店に報酬が支払われていたが、一般ユーザーに対して広告報酬を支払うこともある。これがリワード広告だ。

 代表例はソーシャルゲーム。例えば、iPhoneで人気のソーシャルRPGゲーム「カイブツクロニクル」をプレイすると、「他のアプリをダウンロードするだけで、ゲーム内のアイテムや仮想通貨が手に入る」という選択肢が現れる。

(1)「無料のソーシャルゲームアプリをインストール後起動すると、900魂(編集部注:ゲーム内の仮想通貨)をGET」(2)「450円のメールアプリをインストール後起動すると、1845魂をGET」(3)「乗り換え案内アプリの月額210円コースに入ると、4950魂をGET」 などのメニューが100以上も並ぶ。

 この場合、ユーザーは広告を経由してアプリをインストールすると、本来は自分のお金を払って手に入れるゲームアイテムや仮想通貨を、無料で獲得できるわけだ。

 ちなみにカイブツクロニクルの仮想通貨は、1単位あたり最大0.1円分の価値がある。計算上は(1)のメニューでは90円分、(2)では約185円分、(3)では495円分の報酬が、アプリをインストールしたユーザーに支払われる計算だ。

 ソーシャルゲームを遊ぶ際、こうしたリワード広告を使うユーザーは意外に多い。カイブツクロニクルを開発、提供する、リワード広告大手のアドウェイズは「さまざまなソーシャルゲームは、課金収入の1~2割にあたる金額をリワード広告から得ている」(アドウェイズ執行役員広告事業担当の野田順義氏)と語る。

「課金収入の1~2割」といえど、月1億円の課金収入があるゲームならば、リワード広告で月2000万円得られる計算。女性向けの農園ゲームでは、広告収入が課金収入とほぼ同額になるケースもあるという。

 ソーシャルゲームの有料課金とリワード広告とは、実は補完関係にある。「ゲームにのめり込んでいないユーザーも、リワード広告ならば無料で重要アイテムを入手できる。ゲーム会社からすればアイテム入手の敷居を下げ、より多くのユーザーにゲームの楽しさを知ってもらう効果的な手段だ」(同)。

 こうしたリワード広告がカバーする分野は、スマホアプリのインストールに留まらない。

 前述のカイブツクロニクルには「クレジットカードを発券すると2220魂GET」「ネット証券の口座開設で1260魂GET」「引っ越し見積もりで210魂GET」など、パソコン向けサイトとしてはすっかり定着した、航空マイレージサイトやポイントサイトと同じようなメニューが並ぶ。

 ポイントサイトの現代版がソーシャルゲーム内のリワード広告だとも言えるだろう。

「第2のゴールドラッシュ」で個人開発者の復権なるか

 スマートフォンアプリと言えば、インストールすると利用者の情報を漏洩する数々のアプリが社会問題になっている。当然、スマホ向け広告にも「ユーザーのプライバシーを侵害するのではないか」という疑いの目が投げかけるところだ。

 だが広告会社は「スマートフォン向けの広告では、利用者から取得できる情報はフィーチャーフォンやパソコンより少ない」(mediba)と語る。

 例えば、フィーチャーフォン向けの広告ではユーザー属性など、利用者についてのさまざまな情報を取得できた。だがスマートフォンに対しては、プライバシー問題に対する世間の目が厳しくなっており、こうした情報は取得しにくいという。

 スマートフォン向けの広告市場はさらに大きく伸びる。フィーチャーフォン向け広告市場は現状、約1200億の規模なのに対し、スマートフォン広告は約300億円程度しかない。将来的にはフィーチャーフォン向けの市場規模を超えるのはほぼ確実。市場規模は現在の4~5倍に増えることになる。

 市場拡大の恩恵を受けるのは、スマホアプリを開発する個人開発者や中小企業。無料アプリからの広告収入が増えることで、それを元手にしたアプリ開発も加速するはずだ。

 数年前、iPhoneアプリが登場し始めた時期には「個人でも、有料アプリを売って大金をかせげる」というゴールドラッシュの期待が高かった。だが最近はソーシャルゲームが有料販売の主流。ゲームを継続的に改良できる大手会社はもうかる一方で、個人開発者や中小企業はかやの外に置かれていた。

 だがアプリ広告によって無料アプリでもある程度の収入が得られるようになれば、それを作る個人開発者の動きも再度活発になることが予想される。これから無料アプリでもお金がかせげる「第2のゴールドラッシュ」の時代が来るだろうか。

参照


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